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今、大学は親を理解して親を理解させられないと募集と教育はできない

 今や大学の学生募集の市場における訴求対象は、高校生や受験対象者、高校教諭だけだと思ってはいられない。
現在の大学教育の現状を再確認 してほしい。少子化、低学力化がいわれる中で、自立できない学生が多く見受けられ、コミュニケーション能力不足による社会性の欠如、集団行動がとれないと いった現実がある。個性的といえば聞こえはいいが、拠って立つべきものを持たない無責任さがその根本にあるとすれば、それは大きな問題である。

  その原因は何かを考えてみる時、社会や教育現場にも責任があるということはいえるが、そうした学生が、一番大きな影響を受けているのは、いつも一緒に生活 している場としての家庭であり、そこにいる親であり、そこにも大きな責任がある。子どもは親の背中を見て育つとよく言うが、まさしくその一言があてはま り、そこを見落とすことはできない。

 また、児童・生徒が学校で育つかどうかは、学校環境と教師次第で大きく変わる。最近、進学や就職の実 績を上げている高校などを見ると、やはりそこにいる先生方は実に努力を惜しまないで学校作り、生徒指導を行っている。これは、大学でも同じことがいえる。 入学してきた学生に適した教育システムを持ち、経営部門にリーダーシップを発揮できる理事長、学長、常務、その大学の中核となるポジションの中に、しっか りとしたリーダーがいれば、その大学は発展していく。今まで実績を上げてきた大学を見れば、それは理解できる。

 本稿で、皆さんにお伝えし たいことは、学生募集の市場を考える時には、高校生や受験生、高校教諭だけを見ているのではなく、今、自分の大学にはどんな学生が入学し、在籍しているか を確認する必要があること、そしてそうした学生に、誰が一番大きな影響を与えたかを考えてみると、実は親が、今大切な市場の一部になっていることに気がつ くはずであるということだ。これからの募集戦略のキーワードとなるに違いない。

 では実際に、大学の中でどんなことが起こっているか、以前 とどのように変わったのか、「入試」「教務」「就職」の場での事例をいくつかあげるが、どの大学もそういた現実に直面しているはずであり、容易に理解する ことができるだろう。そして、そうした問題に対し、どのような対応を取っているかも振り返る必要がある。

 これは、大学としての対応ができ ていなと、高校生や受験生、高校教諭そして親にとって、大学選びをする際の選択材料の一部があらかじめ欠けていることになると考えられるのである。そこま できたのかといわれるかもしれないが、現代の大学選択では、些細なことと思われる小さい事まで、その一項目として考えられているようである。したがって、 高校生との接点である募集から教育内容、就職まで、どのようなケアがほどこされているかも、改革時の大学の大きな課題といえる。

親が子供の成長を阻害していないだろうか

《多くの大学の一般事例》

親が全て準備-入試編

親子で大学を知ることは大切である。大学の行事なども一緒に参加し、話し合うことは大切な一手段であり、親子の絆を深めることにもなる。しかし、そこで問題となるのが、子どもがやるべきこと、考えなければならない領分を親が侵してしまうことだ。

  1. 「入学試験の手続きなどは、どのように依頼したらいいですか」と親が質問する。
  2. さらにその記入方法についても質問する。
  3. 試験の前日、子どもを心配するあまり、「大きな教室だとなじまないので、別教室で受験させてください」という要望が入る。
  4. 「うちの子どもは、虚弱体質だから」。そうしたことから、生徒からも試験当日、ちょっとした風邪でも別教室での試験を望む声があがる。

学生の親と接して気になること-教務編

  1. 何の科目を履修したらいいか本人が決められず、親が質問してくる。
  2. 入学時の4月に多いが、子供の帰宅が遅いと心配の電話がある(午後8時~9時)。
  3. サークル活動をさせた方がいいのか、アルバイトはさせない方がいいのか等を親が聞いてくる。
  4. 遅刻や欠席を本人が教員に伝えられず、親が連絡してくる。
  5. 子供が宿題を忘れた、大学にFAXで送付するので渡してほしいなどの要求がある(できないと断ると、「なぜですか、子供が夜遅くまで一生懸命やっていたのに」等と言われる)。
  6. 出席不良、試験不受験、レポート未提出などによる留年であっても、子供を責めずに大学や教員を責める。
  7. 上記のような理由による単位未修得がほとんどだと思われるが、単位修得を過度に難易なことと思っている(語学の単位が未修得だと「語学学校にも通わせた方がいいんでしょうか」、情報系の科目の単位が未修得だと「コンピュータの学校にも通わせた方がいいんでしょうか」等)。
  8. 上記のような理由による原級者の親から、「こうなる前になぜ学期中途で怠学ぶりを教えてくれないのか」等の要望がある。
  9. 子供の言葉を信じすぎる。原級・退学者の親は子どもの学生生活に関心を持っていない。また、大学からの郵便物等は本人が処分していた。

大学の就職担当者からの提言―就職編

就職がうまくいかない、しない学生

就職しない学生(若者)、就職活動がうまくいかない学生とは・・・

  1. 就職することや就職活動に「不安」を感じながらも、何をして良いか分からず、結果として何もしない学生。

    実は、「失敗」とも言えない学生もいる。失敗することに対して、我々が思っている以上に「恐怖心」を抱いている。

  2. 「やりたいこと」と「できること」の区別ができない。

    視点を変えると、「こだわり」を言い訳にして、「就職しないこと」を正当化してしまう学生。親も周囲の大人も、正面切って反論しにくいタイプ。

  3. 大人(歳の違う人間)と接したことが少ない学生。

    価値観や考え方の違う人間と接したことの少ない学生。面接で上手くいかなかったときなど、自らの価値観を全面否定されたと勘違いしてしまうことが多い。

  4. 就職試験と入学試験の違いが分からない学生。

    就職には、入学試験にあるような正解はない。でも、自分としての「答え」を出さないと前には進めない。答えを出せず、前に進めなくなってしまう学生。

  5. 就職活動自体が「自己目的化」してしまう学生。

    手帳にスケジュールを埋めることやインターネットから会社説明会やセミナーの参加申し込みをするだけで、就職活動をやったつもりになってしまう学生。実際には、何をやりたいのか、どんな人生を送りたいのかという「軸(目標)」が無いので、結局、漂うだけの就職活動になってしまう学生。

 ある大学の就職部長が、「最近大学が主催する就職フェアに父親が出席するようになった。就職事情を理解するのもいいが、ここに出席する前にもっと子どもに自分の会社のことを話してほしい」といっていた。「どんな会社か、そこでの自分の役割、そうしたことを話すだけでも、ずいぶん違う」ということだ。それを聞いて、いよいよ「入り口は母親で出口は父親がやる」という親の役割分担が現れてくる時代がきたのだろうかと感じている。

 こうした現状は、どの大学の担当者もうなずけると思うが、今、誰にあるいはどこに反省すべき点があるか議論しているわけにはいかない。大学現場は、高校からそういった生徒に丁寧にレベルをあわせた指導(教育)をしてもらいたいと望まれ、そして実際に指導制度を持ちはじめている。そうした点から大学を評価し、そうあってほしいと望んでいるのである。大学は独自の特色や個性だけに注目するのではなく、入学する学生にあわせた教育を含めた学生の支援サービスを考えていく時代に入っている。

 今、私は、多くの高校現場から講演の機会をいただくが、その約6割が保護者への講演である。そして、大学にどんな学生が入学してくるかを説明して、どこにその原因があるか、そして誰の影響を受けて育ったかを話している。少しでも間違った子育てをしないように保護者に訴えている。私の課題は、保護者が、大学選択をする際の子どものよきアドバイザーになれるようにお話しし、理解してもらい、実際に変わってもらうことである。
以下、講演の一部を紹介する。

保護者がすべき、受験生へのサポートとは

1.現状を知る

自立できない・しない学生―自立させない親が増加

 ここ数年、高校生の『フリーター志向』、大学生の不登校、就職しても3年以内で辞めてしまう『早期退職』の増加等々が社会の大きな問題として取上げられています。

 最近の学生の中には、自立できない・しない学生、自分で考えずに誰かにサポートされないと行動できない学生が目立つようになっています。その原因は、ふだんの生活の中で、子どものやるべき範囲のことを親がやってしまう、与えてしまうケースが増えてきていることによるものです。
 実際に、入学試験の詳細や大学での時間割の組み方、教員の状況、サークルの選定、アルバイトについて等々、本来、学生本人が認識すべきことを親が直接確認するという現状があり、また、学生が就職に悩めば、安易に就職浪人、果てはフリーターを勧める親がいるのです。そうした現状を裏付けるように、高校生を対象とした、自分の進路決定で最終的に相談したいのは誰ですかというアンケート調査の結果でも、3年前からその相談相手は高校教師から親へとかわってきています。自立へと向かうべき進路選択について、親の影響力は今、非常に大きいことを理解する必要があります。まさに、子どもから成人への第一歩を踏み出すときに親がどう関わるかで、子どものあり方が変わってきます。大学の入り口から出口まで、親がどのように関わるかを真剣に考えるべきできなのです。

●自立できない、自分で考えることのできない学生が増えている
●親の関わりすぎが原因(与えられる関係で子ども自らが選択できない、しない)
●進路選択は、大人になるための大切な一歩であり、自立へのチャンス
  • 親の時代と様々な状況が異なることを知る
  • 子どもの自立を促すために、“距離”をおく
  • 親としてできること、すべきことをわきまえる

親世代尺度では理解できない入試状況

 今、大学、短大を取り巻く環境は大きく変わってきています。これは社会の状況と関わることでもありますが、少子化が進み、『学歴神話』が崩壊する中で、定員割れを起こす大学が増え、これまであり得ないと思われてきた大学の“倒産”が出てくる等、大学の存続自体が非常に厳しい状況に置かれています。今や大学は、生き残りを賭けた改革を進めているのです。

 現在、様々な教育改革・入試改革が実施され、高等教育機関(大学・短大・専門学校)の教育環境は大きく変貌しています。保護者のみなさんが受験した時代の尺度では、理解できない状況になっているのです。大学の入試システムひとつとっても、大学入試センター試験利用入試、AO入試、自己推薦入試など、スタイルは多様化・複雑化しています。
 教育内容の面では、現実の社会的課題を反映したカリキュラムを大幅に取り入れたことが大きな変化といえるでしょう。伝統的な学問分野であっても、社会のニーズを反映した実践的な知識・技術が学べるようになり、それに伴って学部・学科の新設・改組が進み、学校の序列も昔とは大きく異なってきています。入試難易度、学校設備、授業内容、取得可能な資格、就職先など、いろいろな面で状況が変わっていることを、まず、理解してください。

 価値観が多様化した現代では「キャリアアップは大学進学だけが手段ではない」と理屈をこねて、受験という現実から逃避しようとする子どももいるでしょう。安易な「フリーター」志向の広がりは、大きな問題となっています。大学への進学率が50%を超え、大卒すべてがエリートではなくなっていることも事実です。大学進学へのモチベーションが低い子どもと対峙したとき、何から何まで親が仕切ってしまうという図式も見えてきます。
 現代社会のあり方の変容から、親の関心も“受験突破”という一点から、「学校で何が学べ、それが社会に出てどう生かせるか」という長期的な展望へ変化してきているようです。一流といわれる大学への進学も、子どもの生涯設計のあくまでも一手段にすぎないという認識がそこにはあります。
 そうした今、子どもにとって非常に大きな高校卒業時の進路選択に対し、親はどうサポートしていけばいいのでしょうか。実は、そうした時代だからこそ、親の助言が求められ、サポートのあり方が重要なものとなってきているのです。

進学後を見据えて― 受験は子どもを成長させる大きなチャンス

 保護者の最大の関心事は、子どもがどのように志望校を選ぶかということでしょう。自分の将来に対して、しっかりとしたビジョンを持っている子どもであれば、それに近い学問分野が学べる学校を選ぶよう、アドバイスしてやればよいのです。教育・資格・就職が一貫した単科大学のようなところもいいと思います。

 しかし、多くの高校生にとって、自分の将来を思い描き、進路を絞ることは大変な作業になっています。最近のいろいろな意識調査の結果は、若年層に「無気力」「無関心」が広がっていることを示しています。「やりたいことが見つからない」子どもに、選択しなさいといってもできるはずもありません。ここ最近、社会問題となっている「フリーター志向の拡大」には、そうした背景があります。また、大学に進学しても、入学してから何をやればいいのかを見出せずにいる学生が増えている現状もあります。
 そんな高校生に言えることは、まず好きな学問や得意科目から学部・学科を選びなさいということです。そこから自分を見つめることを始めるのです。好きでなければ、勉強を長く続けることはできません。学ぶ中で社会との接点を見出し、自分の「やりたいこと」を知るてがかりとするのです。知識は財産になります。「学び」の期間は少しでも長い方がいいのです。

 また、昨今の就職事情をみると、企業は特定の知識・技術を身につけた人材よりも、基礎をベースにどれだけ応用できる力を身につけているかを評価します。「自ら問題を発見し、解決する能力」です。こうした力は、まず好きな学問をしっかり勉強して、社会に出るために必要な基礎学力を身につけた上で、さらに文化に触れ、資格をとり、スポーツやボランティアを積極的に行うなど、自分自身の付加価値を高めていく中で育まれます。そして、最終的には就職にもよい結果をもたらします。
 自分自身で考えることが、子どもの財産になっていくのです。

親子それぞれの必要レベルで情報収集を

 進路選択における情報は、保護者の時代とは比較にならないほど増大し、多様化しています。近年では受験生向けのイベントにも、親子連れの参加者が目立つようになりました。現在の学校は昔に比べて、多くの情報を提供しています。受験を考える学校へ一度は足を運び、設備はもちろん、キャンパスや学生の雰囲気などを直接見聞きして、勉学に励む環境にあるかどうか確かめ、疑問は解決しておくほうがよいでしょう。

 受験生本人と保護者がともに学校の現状や入試制度を理解することはよいことですが、受験生本人よりも親が前面に出てしまうことは感心しません。親のほうが知れば知るほど、子どもの意志を無視し、親自身の判断で無理強いをする傾向が見られるからです。これでは、かえって子どものやる気をなくし、逆効果になります。各学校が催すオープンキャンパスや体験セミナー、進学相談会などに親子で参加した場合は、いっしょに行動しないことをお勧めします。それぞれが必要なレベルに応じた情報を入手すればよいからです。

 ぜひ考えて欲しいのは、「受験は子どもを成長させる大きなチャンスだ」ということ。子どもが人生の次のステップへ進む大きな分岐点といえます。ここで「自分で考え、結論を出し、行動する」ことは、子どもの今後の人生にとって大きな財産になるはずです。こうした経験をさせずに、何でも親がやってしまったのでは、たとえ合格しても、いつまでも大人に成りきれない未成熟な人間になってしまいます。親は子どもの自立の妨げにならないよう、後方支援に徹するべきです。

2.よりよい進路選択のために

高校のあり方を理解する

 子どもの進路選択支援を考えるときに、当然のことながら高校との接点の持ち方も重要になります。高校生が“受験生”となる時でも、高校生活がベースとなることは間違いありません。当然のことながら、高校では教科目の指導が行われるとともに、生活指導、進路指導が行われており、その指導のあり方を理解しながら、親と子と高校との三者による進路選択をすべきではないでしょうか。

 高校における進路指導のあり方を知るためには、高校側の考え方が理解でき、いろいろな情報が入手できるはずです。大学の改革が進む今、高校も大きく変化してきています。高校で何が行われているのかを知ることは、親にとって非常に重要なことになります。

3.具体的な家庭でのサポート

健康管理こそが後方支援する親の務め

 いずれにしても、子どもが迷ったとき、相談に乗れるよう、学校の現状を大まかに把握しておくことは必要ですが、それにも増して親にはできるこがあります。それは健康管理です。体力の限界まで無理をしがちな受験生だからこそ、栄養バランスを考えた食事を用意し、しっかり食べさせることが大切なのです。試験当日、健康を害して受験ができない。かぜをひき、無理して試験会場に来たものの結果的には100%の力が出せない。途中で医務室に行く羽目になり、「今まで苦労したのは何だったのか」とベッドの上で涙する受験生をみるとき、胸が締め付けられる思いです。子どもが人生の難関に挑むとき、充分な体勢で臨めるように、万全を期してバックアップすることこそが、親の務めではないでしょうか。

 今、まさしく高校生が進路を決定するときに、最終的に誰にアドバイスを受けているのか13年前から保護者が一番になっている-ということ。この現実をみれば、高校生の進路選択は、家庭での教育-子育てのあり方から大きな影響を受けていることがわかる。

 大学は、全ての改革の中で、このことを無視することはできない。学生募集のための市場開拓は、あらゆる視点を持つことから生まれることに気づかなければならない。

 大学は、保護者にも、親の時代の大学とは違うことを訴える必要があると同時に、その親をファンにする必要があるのである。