1 募集戦略の視点
(1)自分の大学の位置を認識する
私が開学のサポートをするにあたって中嶋先生にお願いしたことは、私は入試のプロですから、私の意見を100%聞いてくれることを条件にしました。つまり、入試委員会でいろいろな議論になっても私の意見を通してくれと、そうすれば成功間違いありませんと言ったのです。
地方では国公立が断然有利ですから、国公立で行動を起こせば必ずと言っていいほど勝ちます。これまでの国公立大学では、何もしなくても受験生が集まりましたから、彼らがどういうニーズを持っているかということは、ほとんど無関係だったと思います。つまり、受験生をリクルートするという考えそのものがなかったわけですから、その道のプロとしてサポートするのが私の役目だと考えたのです。
委員の中には、県内の進学校や予備校の先生方、TOEFLの関係者、県教育委員会の方などがいるのですが、彼らは、こんないい大学を創るのだから、国立の秋田大と同じように闘えると思っているのです。しかし、絶対にそんなことはありません。地方では、今でも国立、県立、公立、私立という序列が根付いているのです。
自分の大学はどこに置かれているかを知るということから始めなければなりません。これは皆さんの私学でも共通します。どういう地方にいて、どのあたりのランクに置かれているのかということを意識する。市場認知と同時に自分の大学の認知をした上で、募集対象を絞らなければなりません。そこが非常に大事です。私が入試委員会で申し上げたのは、公立とその下の私立の境目の市場を両方とる。最初はそこをターゲットにするということでした。
(2)独自の入試方法を探る
① 入試日程
次は入試戦略です。まず、国公立型(五教科入試)と私立型(三教科入試)を置く、日程も横並びでなく別々にやりましょうと提案しました。一年目は当然、センター試験に乗れませんでしたから別日程になったわけですが、開学から半年たって、次年度の入試もセンター試験とは日程を別にするという提案をしました。
これまでのような護送船団方式は、私学にはもう通用しません。当然、国公立も独立法人化すれば通用しなくなるということが前提となっていることは、中嶋学長もすぐに分かってくれました。ただ、公立大学協会の事務局から、せっかく同じ日程でできるようになったのに、高校生に与える影響はどうでしょうか、という意見があったのですが、最終的には理解を得ることができました。
② 地区別試験の実施
もう一つは、地区別試験による全国展開です。当初、秋田と仙台会場を考えていたようで、私が東京でもやりましょうと言ったら、全員が反対するのです。東京でやったって受験生は来ないと言うのです。冗談じゃないと。東京の人はうちの大学のことを知らないのだから、地区別試験をやることによって知らせるのだという説明をして、決定しました。そのついでに、大阪でもやりましょうと言うと、また反対されましたが、いろいろな議論の結果、初年度は秋田、仙台、東京、大阪の四会場を設けました。その結果、四会場とも同じような数の受験生が来たのです。
前任校で、私は10年前に関東でいち早く地方入試を設けましたが、既にその10年前に関西の立命館が動いていました。今の国公立はそこから20年も出遅れていることになります。試験会場を全国に設けるというのは、認知させるには一番早い方法です。今どきの高校生たちの、情報に敏感なところを利用して、今まで全然認知がなかった地方にまで一気に広げたのです。
ただし、国際教養大学の場合は公立なので全国展開に成功したのですが、私立の場合は大学の規模によって事情がずいぶん違います。基本的に、大型の大学は全国型の募集は成功します。しかし、中・小型の大学は、少子化と経済不況の影響を受けて地元志向型になっていますから、全国型にはできません。その代わり、地元の高校、予備校を徹底的に回り、大事にすることが必要になってきます。
自分の大学の置かれている環境によって闘い方は全く違いますので、何を事例にするかということをしっかりお考えいただいたほうがいいと思います。
(3)高校生に向けた情報の発信
全国から学生が集まった背景には、この地区別会場を設けたからということもありますが、実際には、中嶋学長がくまなく全国行脚したことがあります。もちろん、担当の職員も全部動いたのですが、トップである中嶋学長が大学の顔として、全国の高校生に直接メッセージを発信するほうがはるかに効果が上がります。
私自身、高校での講演の際に直接高校生に話を聞くと、「自分が行きたい大学を探し、そこに行く」と言います。今の高校生は、情報を素早くキャッチし、自分で理解し、納得してその大学を選ぶ、そんな時代になっているわけです。そういった、見る目をしっかり養っていますから、自分の大学が高校生に選ばれるにはどうしたらいいかを考えることが非常に大事になってくるのです。
今後は、例えば国立大学に目が向いている高校生を、どうやって国際教養大学に惹きつけるかということが勝負になると思います。強い意志、向学心を持つ高校生たちが、あの大学に行ったほうが自分にとって良いのだということが分かれば入学してくるのです。