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大学全入時代を目前にした学校広報のあり方とメディア

学校広告と読売新聞2005

 大学全入時代が目前に迫り、大学は改革の時代を迎えている。変革の時代の学校広報のあり方はどうあるべきか。大学の入試広報改革に長年携わり、そ の経験を生かして多くの大学セミナーの講師を務め、また、公立大学の独立法人第1号として開学した国際教養大学(秋田県雄和町)の入試関連アドバイザー、 女子栄養大学の広報部長兼理事長付部長として活躍する染谷忠彦氏に聞いた。

 少子化と国・公立の独立法人化によって、すべての大学は改革を前提にしなければ今後の大学運営は成り立たない状況になっています。改革できない大学は募集力を失い、それは必然的に大学の倒産を意味します。入試広報、学校広報を根本から考え直す時代を迎えています。

  改革の中心は、教員と職員です。これまで大学運営の中心は教授会を中心とした教員であり、職員は大学運営のサポート役に過ぎないという考え方がありました が、私はそうは思いません。むしろ、職員の意識の高い大学が今後は勝つと思っています。アメリカでは、入試担当者は「アドミッション・オフィサー」と呼ば れ、教員より高い位置にいます。教員が教育のプロであるならば、職員は入試広報、学校広報のプロであるべきです。「改革」と「募集」を一対のものとしてと らえ、入試広報、学校広報を展開していく。その場合も重要なのは、社会的認知度や難易度の高い大学づくりだけでなく、難易度ごとの大学づくりがあるという 考えです。

■ 改革と一体化した募集戦略を

 これまでも、大学改革はすすめられてきました。しかし、それは新しい学科をつくり、入試制度を変えるという上辺だけの「改革」でした。その次に言われたのが、「大学の特色」です。まだ、この段階に止まっている大学も多いと思うのですが、大学の特色を知らせただけでは関心を持たれません。どうやってそれを素材にして受験者を集めるか、具体的な施策と結びつけることが、今、各大学に求められていることなのです。
 例えば、私が今籍を置いている女子栄養大学は、社会的認知度が高く、栄養士や料理研究家など人材の輩出力も非常にある大学です。「食と健康」を一貫したテーマにした月刊誌『栄養と料理』を昭和10年から出版していますし、ホームページも充実していますから、それで十分だというイメージを持ってしまいがちです。しかし、実際には社会的認知度が高くても高校の先生、生徒にどこまで認知されているかを、たえず把握している必要があるのです。
 改革を行う基本は、しっかりとした情報をベースにしなければなりません。そのヒントは、直接的な市場とその周辺にあります。つまり、大学、高校教諭、生徒、保護者、そして社会や企業のあり様から見い出すことができるのです。

■ 市場のニーズを具体化する

 具体的な例をいくつか示しておきましょう。
 まず、トップリーダーが大事なのは、大学も同じです。私が入試アドバイザーとしてかかわった国際教養大学では、中嶋嶺雄学長が非常に個性の強いリーダーシップで学校を引っ張っています。学長自ら県内のみならず全国の高等学校を率先して訪問し、創立の理念を直接伝えています。これは高校もそうです。高校では、就職担当の先生が地道に企業訪問をして開拓していますが、もし、その高校の校長が一回でも企業を訪問すれば何十倍もの効果がありうるということです。
 また、高校教諭が抱えている問題の一つに、今の教えている内容ではたしていいのかと疑問に思っていることがあります。従って大学の授業、研究室が見たいという希望も持っています。そういう高校の先生に対して、「当校の大学の授業を見に来てください」というお誘いをすると、それは高校教諭にとってもスキルアップにもなりますし、大学を理解してもらう絶好の機会にもなります。
 あるいは、中学校の技術家庭科のコンクールには、ロボット、被服などいろいろありますが、「食育」がありませんでした。そこで、食育につながるお弁当づくりのコンクールを女子栄養大学がバックアップすることにしたのです。その大会に参加した生徒、入賞した生徒はもちろん、運営に携わった先生そして保護者は、女子栄養大学に対する関心を一生持ってもらえるということにも確実につながります。

■ 進路の決定権を握る「親」

 大学のメーンの市場は、高校です。大学と高校の先生との接触のあり方は変化しています。最近の大学は、年間150もの新設、学科改組、名称変更があります。高校の先生、進路指導の先生が、それらすべてを把握するのは困難な状況になっています。それに対して、大学は「どうお手伝いできるか」と考える視点がまず必要です。
 また、大学から高校を見る場合、これまでは先生と生徒だけを考えればよかったのですが、最近は親というターゲットが増えています。少子化の中で、親の子どもへの関心が大きくなり、子どもも親と密着して育つことで、親に頼るようになっています。その結果、親が進学先の決定にも大きな影響を及ぼすようになってきたのです。私も、これまでは子どものことは子どもにまかせるよう指導してきたのですが、3年前くらいから考え方を変えました。親が最終的なアドバイザーであるならば、親に現実を理解してもらい、自分たちが学んでいた時代とは大学が変わっていることを知らせ、それを元に子どものよき相談相手になって欲しいと考えるようになったのです。

■ 情報の入り口は紙媒体

 進学先の決定権が親に移る前、実は私は学校広報には新聞広告はいらないという立場だったのですが、今は考え方を変えています。それだけでなく、新聞記事が取上げたくなるような活動にも積極的に取り組むようになりました。自立できない学生が増えたことは嘆かわしいことですが、入試広報のプロとして、そういう現実を受け止めなければいけない。大学は、親を視野に入れた募集戦略を立てる時代になってきたのです。
 最近はインターネットに注目が集まっていますが、学校広報の中心にインターネットはなり得るというのも重要な視点です。昨年までは紙媒体とインターネットの比率は、実感としては7:3でしたが、今年は6:4という具合に、インターネットの比重は高まってきています。ただ、どこまでいっても、「どの大学に行くか」という情報の入り口は紙媒体だと思っています。それから、ネットで調べる。そういう情報の入手過程も今後は考慮する必要があります。
 親が進路決定のカギを握っていることと関係しますが、最近の生徒の中には大学の偏差値にとらわれず、自分が勉強したい大学があるなら北海道でも、九州でも行くという現象が一部に出てきています。単なる大学の難易度や漠然とした特色ではなく、この大学はここが一番と言える教育、研究分野を打ち出し、高校生に「選択してもらう」時代になったということです。
 企業活動には理念が重要だと言われるように、大学にとっても最終的に重要になるのは教育理念です。それを大学に携わるすべての人が共有し、「この大学の特長はこれだ」という確信が持てた時、大学は一校一校がすべて違うオンリーワンの存在になれると思います。

目前に迫った大学全入時代

 文部科学省は平成16年度の実績をもとに、将来の「18歳人口」「大学・短大総志願者数」「入学者数」を試算した。18歳人口が減少し続けるなか、平成19年(2007)年には志願者数と入学者数が同数になる。つまり、大学・短期大学の収容力は100%となり、すべての志願者がいずれかの大学・短大への入学が可能ということになる。大学全入時代の到来が予想される。