Ⅰ 国際教養大学開設準備にたずさわって

 三年前に大学開設の準備委員の依頼があったとき、どこにつくるのですかと聞くと、秋田だというのですね。あんな山の中に誰が来るんだ、というのが最初の印象でした。私がそう思うということは、誰もがそういうイメージを持っているということです。実際、予備校を回って、情報部長に「こんなところを手伝えと言われているんだけど、どう思う?」と聞くと「やめたほうがいいんじゃないの」と言われました。このように、開学の一年前は、情報のトップランナーさえもそういう印象でした。

 自分自身が勝てると思わなければ、サポートすることはできません。私が勝つと見込んだ要因は、やはり教育内容です。

 授業だけではなく、教授会も職員も全部英語で話す。教員構成についても、約六〇%が外国人で、全世界に一般公募しています。普通だと、日本へ来たんだから日本語ぐらい勉強しろと言うのでしょうが、日本語は全然喋れない。そこが幸いして、全くの異文化の中で学ぶという環境が作られたのです。これは日本の他の大学では体験できない、大きなアピールポイントとなります。

 また、一般教養の先生方も、バイオリニストや美術家など、非常に著名な方を引っ張ってきています。世界のナンバーワンから授業を受けるのですから、それも大きな魅力になると思いました。今は教員免許など持っていなくても大丈夫なのですから、そういう方を呼んできて、直に貴重な体験を味わわせる。そうすることで、その大学の人気度は全く別の角度から認知されていくのです。このような形の教員集めも非常に成功したと思います。

 この教育システムならば、日本全国から学生が集まってくるだろう。あとは入口である学生募集のやり方次第だと確信して、アドバイザーに加わりました。

1 募集戦略の視点

(1)自分の大学の位置を認識する

 私が開学のサポートをするにあたって中嶋先生にお願いしたことは、私は入試のプロですから、私の意見を100%聞いてくれることを条件にしました。つまり、入試委員会でいろいろな議論になっても私の意見を通してくれと、そうすれば成功間違いありませんと言ったのです。

 地方では国公立が断然有利ですから、国公立で行動を起こせば必ずと言っていいほど勝ちます。これまでの国公立大学では、何もしなくても受験生が集まりましたから、彼らがどういうニーズを持っているかということは、ほとんど無関係だったと思います。つまり、受験生をリクルートするという考えそのものがなかったわけですから、その道のプロとしてサポートするのが私の役目だと考えたのです。

 委員の中には、県内の進学校や予備校の先生方、TOEFLの関係者、県教育委員会の方などがいるのですが、彼らは、こんないい大学を創るのだから、国立の秋田大と同じように闘えると思っているのです。しかし、絶対にそんなことはありません。地方では、今でも国立、県立、公立、私立という序列が根付いているのです。

 自分の大学はどこに置かれているかを知るということから始めなければなりません。これは皆さんの私学でも共通します。どういう地方にいて、どのあたりのランクに置かれているのかということを意識する。市場認知と同時に自分の大学の認知をした上で、募集対象を絞らなければなりません。そこが非常に大事です。私が入試委員会で申し上げたのは、公立とその下の私立の境目の市場を両方とる。最初はそこをターゲットにするということでした。

(2)独自の入試方法を探る

① 入試日程

 次は入試戦略です。まず、国公立型(五教科入試)と私立型(三教科入試)を置く、日程も横並びでなく別々にやりましょうと提案しました。一年目は当然、センター試験に乗れませんでしたから別日程になったわけですが、開学から半年たって、次年度の入試もセンター試験とは日程を別にするという提案をしました。

 これまでのような護送船団方式は、私学にはもう通用しません。当然、国公立も独立法人化すれば通用しなくなるということが前提となっていることは、中嶋学長もすぐに分かってくれました。ただ、公立大学協会の事務局から、せっかく同じ日程でできるようになったのに、高校生に与える影響はどうでしょうか、という意見があったのですが、最終的には理解を得ることができました。

② 地区別試験の実施

 もう一つは、地区別試験による全国展開です。当初、秋田と仙台会場を考えていたようで、私が東京でもやりましょうと言ったら、全員が反対するのです。東京でやったって受験生は来ないと言うのです。冗談じゃないと。東京の人はうちの大学のことを知らないのだから、地区別試験をやることによって知らせるのだという説明をして、決定しました。そのついでに、大阪でもやりましょうと言うと、また反対されましたが、いろいろな議論の結果、初年度は秋田、仙台、東京、大阪の四会場を設けました。その結果、四会場とも同じような数の受験生が来たのです。

 前任校で、私は10年前に関東でいち早く地方入試を設けましたが、既にその10年前に関西の立命館が動いていました。今の国公立はそこから20年も出遅れていることになります。試験会場を全国に設けるというのは、認知させるには一番早い方法です。今どきの高校生たちの、情報に敏感なところを利用して、今まで全然認知がなかった地方にまで一気に広げたのです。
ただし、国際教養大学の場合は公立なので全国展開に成功したのですが、私立の場合は大学の規模によって事情がずいぶん違います。基本的に、大型の大学は全国型の募集は成功します。しかし、中・小型の大学は、少子化と経済不況の影響を受けて地元志向型になっていますから、全国型にはできません。その代わり、地元の高校、予備校を徹底的に回り、大事にすることが必要になってきます。

 自分の大学の置かれている環境によって闘い方は全く違いますので、何を事例にするかということをしっかりお考えいただいたほうがいいと思います。

(3)高校生に向けた情報の発信

 全国から学生が集まった背景には、この地区別会場を設けたからということもありますが、実際には、中嶋学長がくまなく全国行脚したことがあります。もちろん、担当の職員も全部動いたのですが、トップである中嶋学長が大学の顔として、全国の高校生に直接メッセージを発信するほうがはるかに効果が上がります。

 私自身、高校での講演の際に直接高校生に話を聞くと、「自分が行きたい大学を探し、そこに行く」と言います。今の高校生は、情報を素早くキャッチし、自分で理解し、納得してその大学を選ぶ、そんな時代になっているわけです。そういった、見る目をしっかり養っていますから、自分の大学が高校生に選ばれるにはどうしたらいいかを考えることが非常に大事になってくるのです。

 今後は、例えば国立大学に目が向いている高校生を、どうやって国際教養大学に惹きつけるかということが勝負になると思います。強い意志、向学心を持つ高校生たちが、あの大学に行ったほうが自分にとって良いのだということが分かれば入学してくるのです。

2 教職員の意識改革

 以上のような募集戦略を実現するにあたっては、当然ですが学長の強いリーダーシップと、教職員の意識改革が必要不可欠です。

 国際教養大学では、クラーク副学長の提案により、「暫定入学制度」を導入し、総合得点で合格ラインに達しなかった学生でも、英語の得点が非常に高い学生を暫定的に科目等履修生として入学させるという制度をとっていますが、普通なら教授会はすんなりと賛成してくれないと思います。しかし、国際教養大学では、学長の強力なリーダーシップのもとで、迅速な意思決定と柔軟な大学経営を行うことができています。

 私自身、前任校では教授会への対応には本当に苦労しました。教員は理屈ばかり言いますので、その通りにやっていたら絶対に成功しません。それでも、日本の大学ではどうしても教授会を立てて、先生方に理解をしてもらわないと改革が進まないのが現状です。

 教員の意識を変えることは確かに難しいのですが、突破する方法はあります。それは、こういうことをやりたいと思えば、まず教授会のトップである学部長や学科主任に理解してもらい、味方につけることです。そこを突破すれば、たいてい教授会はクリアできると思っています。

 次に職員ですが、職員が変われば学校はどんどん変わります。しかし、職員はどうしても自分のエリアを守ろうとします。学校改革というのは分業では不可能ですから、職員全体の意識が向上しないとうまくいきません。

 そのためには、トップリーダーがどんどん業務命令を出して、「やれ」と言って動かすしかありません。当然、職員からは嫌われるでしょうが、それが生き残りをかけたトップリーダーの役目なのです。そうでないと、一部長クラスの権限だと業務命令が弱く、「やれ」ではなくて、「やって下さい」と言わなければならず、時間がかかってしまうのです。もちろん、業務命令を出すトップリーダーがじっと座っていてはついてきませんから、トップが率先して動いている状況を見せなければいけません。

 国際教養大学のすばらしいところは、職員の意識力がとても高いところです。この大学は10億円という低予算で設立されたそうです。県立大学は350億円以上もかけているとのことですから、その違いは一目瞭然です。このような予算規模の小さい中で、当然、人件費にも限りがあるわけですが、職員は夜遅くまで一所懸命仕事をしています。これは大学にとって大きな力になります。高校でも、先生が朝早く来て夜遅くまでいるような高校はどんどん伸びます。何倍も努力しているところが実を結ぶ結果を手にするのです。

 実は、開学二年目に、予算の問題もあって地方入試を削減したいという意見が出ました。冗談じゃありません。他の国公立がなぜ二年目から志願者が減っているのか、それは、二年目から早くも手を抜くからです。むしろ二年目は一年目よりもっと動かないといけないのです。そこで、今年は福岡と札幌も加えて六会場に増やしました。来年度はさらに名古屋を加えて七会場にする予定です。

 このように、最初は反対していても、だんだんと生き残りのための自覚や市場の認識はできています。そういう点で、国際教養大学の教職員は成長が速いと感じます。

 今、国公立でも定員割れになっている大学はたくさんあります。そういう中で、この国際教養大学が勝っている要因は、学長以下教職員が一丸となって二年目以降も気を緩めないで頑張っているということにあるのです。

3 その他の課題

 いろいろな課題はありますが、中でも就職先については、受験生にとって非常に関心のあるところです。私は、スタートと同時に就職先の情報も見せるようにと言っています。では、まだ実績がない新設大学でどうすればいいのかですが、大学の経営会議に著名な人がたくさん入っていますから、その方たちの会社からこの学校に対する協賛を取っておく。そうすれば、高校生から見た場合には、そこに就職先はあると思うだろうという作戦です。これは見せ方の問題です。

 今のカリキュラムでいくと、三年生になって海外留学に行きますから、ちょうど就職活動の大事な時期と重なります。それまでに英語のレベルは非常に上がっているわけですから、海外留学先で就職活動をさせることも一つの手段だと思います。現実は難しいでしょうが、そのくらいの気持ちを持って行かせることが必要だと思います。

4 独立法人化の私大への影響

(1)学長の権限強化と改革の推進

 昨年、国公立大学の独立行政法人化がスタートしました。皆さんも私大への影響はどうなるのか、非常に心配されていると思います。

 国公立大学は私大に比べて教員の数も多く、文部科学省は学長に大きな権限を与えています。大学全体の運営方針を決定する「大学経営会議」では、企業などから多くの著名人を入れて、今までの教育は駄目だから、ああしろ、こうしろとどんどん提案させて、改革を次々に打ち出しています。先ほども言いましたが、国公立は動けば必ず成功しますから、これは私学にとって大きな脅威になります。

 しかし現実には、学長を中心としたこの経営会議と学部の教授会には、まだまだ大きな隔たりがあります。一学部に私学の三倍ぐらいの教員がいるわけですから、教授会を束ねる学部長クラスの先生方は大変苦労されています。私学ですら教員が動いてくれないところがいっぱいあるのに、国公立でうまくいくはずがありません。

 それでも、国から強い権限を与えられていますから、何らかの形で動いてきます。しかもその動きは速くなります。私学の立場から言うと、むしろ教授会で多少ブレーキがかかってくれればいいと思うわけですが、影響が出てくるのは必至です。

(2)国公立大学の入学定員の増加

 もう一つ、大きく変わったことがあります。昨年、大手大学が追加合格者を発表しました。その背景には、国公立大学が法人化されたことで、財政的にも定員割れが許されない状況になって、昨年から定員を今までより多めに発表していることにあります。

 その結果、第一志望の国公立に落ちた生徒は、国公立からお呼びがかかるのを三月末まで待っているのです。そうすると、私学はたまったものではありません。そこで、大手の私学でも注意をし始めて、最初から多くとって、それでも埋まらない場合には追加発表しなければならないという状況が出てきたわけです。上へ上へと志願者が集まりますから、当然、中小規模の私学は大きな影響を受けることになります。二年目の今年はそれが顕著に表われています